ショートストーリー №19 三寒四温

 ベランダから見える山桜の樹が、すっかり葉桜に変わってしまった。いつもなら、もう春たけなわの頃なのに、今年はなかなか季節が進まない。上着無しで歩けたと思ったら、翌日にはまた手袋をつけて出かけるような日が繰り返される。場所によっては、満開の桜に雪が降り積もったりする。テレビのニュースで、映像として見る分には、確かに美しいし、そういう風景は貴重だと思う。それにしても・・・である。

 妄想女は血行が良くないので、健常な人より末端が冷えやすい。時として、手指からまったく血の気が引いてしまう事がある。どんな感じかを説明するのに、一番わかりやすいのは、亡くなった人の肌感と言うのが良いのかしらと思う。
 亡くなった人の肌に触れた経験のある人は、あまりいないかもしれないが、本当にそれが一番実感しやすい例えだと思っている。無機質の冷たさでは無い、不思議な冷たさなのだ。壊死寸前の感覚なのかと思う。

 指先の体温を回復させるのには、温めるしかない。家にいる時は、ぬるま湯に手を浸ける。熱い湯の方が早く温まると思うかもしれないが、熱い湯ではいけない。刺激が強すぎるのか、ピリピリするだけで、深層部は温まらない。ぬるま湯で時間をかけた方が、芯まで温まるのだ。
 出先とかで、そういう状態になった時は、自分の身体で温める。その時の状況により、首筋・脇の下・乳房・腹などに押し当てて温めるのだ。だが、人目のある所では、首筋位が精いっぱいである。「変な人」と勘違いされかねないから。それで、本当にひどい時にはトイレに駆け込む。個室でなら、死人のように冷えた自分の指を、乳房や腹を使って温めていても、咎められたり、好奇の目で見る人はいないから。(笑)

 今まだ「五寒二温」位かなぁと思いつつ、冷たい指先を温めながら、早く「三寒四温」になってほしいと思う今日この頃です。

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