ショートストーリー №22 ハイヒール

 テレビで、ハイヒールを履いた綺麗な足を見ると、妄想女は必ず私に言うのだ。
「ねぇ、はぁこ。私だって、若い頃はあんな靴を履いていた事もあるのよ。」 
 幽霊猫の私は、妄想女の若い頃を知らない。生前、私が彼女の住まいに居ついた時には、彼女は充分に大人になっていた。そして、その頃の彼女は、慢性疾患が原因で、ハイヒールどころか、硬い革靴が履けなくなっていた。

 二十歳前後の頃には、白黒のコンビでエナメルの靴を履いたの。綺麗なオレンジ色のハイヒールは、お気に入りの一つだったわ。黒の大人びたピンヒールも好きだったし・・・。高級な物は持っていなかったけど、自分でもセンスは良い方だと思っていたっけ。
 白地にオレンジの花柄のワンピース。ピンク色のパフスリーブのブラウス。センタースリットが入った黒のタイトスカート。今でも覚えている、お気に入りの数々。・・・服に合わせて、バッグや靴をコーディネートするのが、楽しかった。小さい時は、ファッションデザイナーになるのが夢で、ノートにデザイン画を描きためた時期もあったくらいだったから。(笑)

 背筋を伸ばして、胸を張って、膝を伸ばしたまま脚を蹴りだすようにして歩く。ショーウインドウに映る自分の歩く姿は、ちょっとしたモデルのようで、内心自慢でもありました。まだまだ、夢に浸っていられる時代で、未来はバラ色だと思っていたのです。

 画像・・・もう一度、ハイヒールを履いて、さっそうと歩いてみたいわ。そんな彼女の願いは、妄想の中でなら、たやすく叶えられるのです。ダンスフロアの中央に立つ彼女は、とても優雅にターンを繰り返す。ハイヒールが似合っていたあの頃と同じように、輝いているのでした。    

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